review

June 30, 2006

文学部唯野教授この人とは昔からあんまり手が合わないんだよね。
たとえば、この本でも、章題に特性のない男なんてムージルを引いちゃったりするスノッブなトコが大嫌い。

まあでも、この本は「ギャハハ」と大声を上げて大笑いして読めはしたんだけれども。


本職は大学教授である覆面作家を主人公に、大学という仕組みをパロディックに解剖しつつ、現代の文芸批評を語る、という本書は、いわば「大いなる助走」の続編であって、この作者の性格の悪さに良く合っている(爆)
この人は、こういうものだけを書いておればよろしい。


daddyscar at 21:05   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit
トポロジーや無限、確率などの数学をモチーフとした短編を集めたオリジナルアンソロジー"FANTASIA mathematica"から7編を精選したもの。これに吉永良正というサイエンスライターのコラムと、森毅の解説を付記している。
ちなみに、これだけ注釈が多い良本なのに、原題がないのは片手落ち。

以下、各編毎に(ネタバレ注意)。


タキポンプ/エドワード・ペイジ
本編に限らず、本書に収められた話には、数学者とともに、数学嫌いが幾人も登場するが、それは森の解説にある「数学および数学者を異者として対象化する」存在としてわかりやすいということだろう。本編の主人公も数学嫌いなのだが、そのくせ自分をデクノボウ扱いする数学者の娘に恋をしてしまうのだった。あとは推して知るべしであって、主人公は、その恋を成就させるために、無限の速度の原理を発見しなければならなくなる。吉永はコラムで、本編のアイディアは「特殊相対性理論が掲げる光速度一定の原理に反する」と書いているが、それは説明になっていない。それよりも、古典力学の範囲で不可能なこととして説明出来るのではないか?
各々の列車は、その上に乗っている列車から進行方向とは逆の力を受ける筈だ。

歪んだ家/ロバート・A・ハインライン
二次元と三次元の関係を、三次元と四次元に対応させていけば…というアイディアをコミカルに語った一編。これに対して森が「四次元になってもかまわないが、もしもそれがユークリッド的なら、直角三角形の底辺が斜辺より短いのと同じ理屈で、三次元的距離は四次元的距離よりも短いはず、四次元で遠くへ行けるはずないじゃないか」と噛みついているのが面白い。

メビウスという名の地下鉄/A・J・ドイッチェ
ボストンの地下鉄が、メビウスの帯のように四次元的につながってしまい…というただのホラ話。でまた、出てくる数学者のホラにリアリティがない。

数学のおまじない/H・ニアニングJr
ある数学教授が、数学のまったく出来ない自分の教え子にブードゥのまじないをかけて…という話。なんかどこかで読んだようなと思っていたが、これって"アルジャーノン"じゃないかと読後に気づいた。

最後の魔術師/ブルース・エリオット
ディテールにちょこっと数学が出てくるだけで、内容は数学にもSFにもまったく関係のないサスペンス物。

頑固な論理/ラッセル・マロニー
「もしも6頭のチンパンジーにデタラメにタイプライターを叩き続けさせれば、100万年後には大英博物館にある本を全部書き上げるであろう」という確率論のヨタ話を、なんともグルーミィに語った佳作。

悪魔とサイモン・フラッグ/アーサー・ポージス
主人公サイモン・フラッグは、「フェルマーの最終定理」の証明と引き換えに、悪魔と契約する。だがしかし、悪魔でさえも、それを証明することは出来ない…


ベストは「頑固な論理」。ただ、解説で森も書いているとおり、ここにあるのは、数学を異者のメタファーとしただけの物語であって、本当の数学SFではないね。



第四次元の小説―幻想数学短編集
R・A ハインライン 三浦 朱門
小学館 (1994/08)
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daddyscar at 20:21   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit
イノセンス スタンダード版まず、CGや作画の濃密さは行き付くところまで行ってしまってて、そこに驚きはないかな。
てか、アニメとか実写とか、そんなのもう関係ない感じだよね。押井守にもっと金やって、思いっきり実写で撮らせてあげたい。

で。
登場人物の感情が見えないんだよなあ。
映画にしても小説にしても、登場人物の感情は、物語の導線=動線であって、それが見えない物語は、結末へ収束するパワーに欠けているし、そこを無理やり収めようとすると、お話に無理が出てくる。
主人公であるバトーが、何ゆえ、このストーリーに身を投げ捨てているのか?
ハードボイルドにありがちな虚無感ならば、それはそれでいいとしても、でも虚無感にいたった原因が全然わからない。
でまた、草薙素子は、なぜあそこに現れたのか?
愛なんて甘っちょろいこと、云わないよね(笑)

電脳、義体、ゴースト…そういう造語に絡めて、これは現実なのか? ここにある自分は本当に自分なのか? そして自分とは何なのか? というような思索が語られるのだけれど、やっぱこういう題材は小説向きであって、映像で、その虚実を上手く語ることは難しいのではと思う。
ぶっちゃけ神林だったら、もっとエレガントにこういう話を書くよなーというか(笑)

daddyscar at 20:20   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(2)TrackBack(0) Edit
宮沢賢治とかブラッドベリとか、色々な名前が思い浮かぶんだけれど、結局は萩尾望都だよね。自身のイラストも含めて、最良の、少女マンガへのリスペクト。

ただ、ちょっと気になるのは、背景にあるSF的ガジェットがストーリーにはこれっぽっちも影響を与えないこと。つまりは字義通りの「背景」でしかなくて、それならこんなんいらないんじゃないの?とも思う。その背景がなくても、面白さが減じるわけでは決してないし。

で、逆に思うのは、そのSFっぽさがストーリーにオミットしていたら、どうなったんだろう?という期待。それを想像しなかったと云ったら嘘になる。文学界からの野阿梓への回答、なんて云ったら大袈裟か(笑)


ストーリーと全然関係ないんだけれど、「角パン」という言葉が使われててさ。
この著者がイメージしたのはイラストを見る限り、角のようなフランスパンみたいなんだけど、僕は、その言葉を目にした途端、内側は真っ白でふわふわしてるけど、耳のところがキッと角ばった食パンが思い浮かんで、たまらなかった(笑)
その鮮烈なイメージを味わえただけで充分。


天体議会(プラネット・ブルー)
長野 まゆみ
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daddyscar at 20:19   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit
この人の云う本格に納得出来てないのは、昔からわかってて。
この人の書くトリックは、いつもホントに実際にあるモノ。道具。
物理的トリックとかって云うのかな。
でも、いまさら、そんなもんじゃ、もう楽しめない体になっちゃっててさ(笑)

トリック自体でビックリした作品はいくらでもあるけど、「ああ、本格のトリックって、こういうことなんだな」と教えてくれたのは、逢坂妻夫の天井のとらんぷ
あの作品で、カップ・アンド・ボールに出会ったのは衝撃的だった。
僕にとっての本格ってまさにアレ。
どのカップからボールが出てくるのか?という期待と、最後に観客/読者の予想のしないところからボールが出てくる驚きこそが本格なのだと思う。

なんか、この本とは関係のない話になっちゃいましたが(笑)


奇想、天を動かす
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島田 荘司
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daddyscar at 20:18   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(1)TrackBack(0) Edit
定義の前に知があり、知の前にイデアがある。


今日の科学は、部分的には数多く目的論的説明をしながら、しかしそれの原理的反省はしていない。恐らくこれは哲学に頼らなければならないと考えているせいかも知れない。


と、いきなり引用してしまったけれども、これらの云うことはつまり、知や真・善・美が、それ単体で、なにごとにも影響されず存在すると、この著者は考えていて、そういう考えが、今の哲学にも存在するんだということ。
未だ中二病に冒されている僕は(笑)、なんとも嬉しくなってしまった。

簡便な言葉が景色のように流れていく哲学世界のクルージング。
いや、田中美知太郎先生に対して、僕なんかがいまさらですな(笑)




daddyscar at 20:16   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit
八つ墓村新本格以降のニワカ本格ファンなので(だって、Yの悲劇まだ読んでないですからw いちお老後に取ってあるつもりなんだけどw)、実は初めての横溝正史なんだけど、割りと楽しく読めてしまって逆にビックリ(笑)

で、読み始めて不思議に思ったのは、この作品における語りが、この作品にだけしか出てこない人物によって成されること。
探偵と語り手が分離する形式は、ポー以来の伝統だけれども、だからといってレギュラーの語り手を持たないというのは、どういうことなんだろう? それとも、普段はワトスン役がいるのだろうか?
もし、他の作品も同じ形を取っているならば、それが、この探偵の影の薄さを招いているのだと思う。

読み終わってしまえば、謎解きはとても論理的で、犯人は、この犯人しかありえず、また動機にも不自然さはない。
乱歩ほど自意識過剰な作家ではなかったのかな(乱歩の場合は、それが魅力なのですが…)。

daddyscar at 20:15   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit
本書の中で取り上げられた、サーカス、ワイルド・ウェスト・ショウ、ヴォードヴィル、巡回講演、ダイム・ノヴェル、バロウズのターザン、ハリウッド…それらを並べてみれば、共通した何かを感じることが出来る。いわばアメリカン・カルチャー。だが、しかし、それがアメリカそのものであるのかも?というのがまずは読後感。

本書は、これらのアメリカン・カルチャーが、いかにアメリカという国の成立事情に影響されたか、ということをとりとめもなく書き散らした本。ただ、この複眼的視点こそ、著者が云う「直接的体験」/"imediate experience"というモノなのかもしれない。つまりは、ポスト構造主義か(笑)

そんな肩肘張った物云いをせずとも、ワイルド・ウェスト・ショウの名だたる出演者たち(アニーよ銃をとれのアニー・ウォルクスやカラミティ・ジェーン)や「巡回講演」と呼ばれる見世物の解説に驚嘆の声を上げるだけでいい。想像力の刺激される楽しい読み物なのだから。

この「巡回講演」の主役たる「さまよう教師たち("Woundering Teacheres")」の子孫がテレビ伝道師なのだろうし、バロウズのターザンの子孫がDCやマーヴルのヒーローたち、先祖返りをするように70年代頃より悩めるヒーローとなった彼らであることは自明の理。

未だに少年たちが、コミックスのヒーロー物に熱狂するのは、ヒーローたちが、スーパーヒーローである自らの非日常的行動と同時に、家族も恋人もいる静穏な日常生活をも送っているという、ふたつの世界の狭間に悩める存在であるから、というのが、本書を読むとよくわかる。


サーカスが来た!―アメリカ大衆文化覚書
亀井 俊介
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daddyscar at 20:14   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(1)TrackBack(0) Edit
ディストピア小説の先駆としてのこの作品を、ソヴィエト・ロシアの歴史と重ね合わせないではおれないのだけれど、そんなことをしても無駄だよな。
2006年の日本に生きる僕が感じること、リアルタイムにこれを読んだロシア人が感じること。
一時は体制批判により収監された作者の言葉の、なんとも奇妙で瑞々しいことよ。

そして今、監獄。ここはなんとすばらしいのだろう、どれだけすばらしいことを経験したのだろう。
何か大波のようなものにさらわれて、どこかへ急速に運ばれてゆく。もはや自分の意思はない。これはなんというすばらしさか! こういう気持ちがわかってもらえるでしょうか。あなたは波打ち際で泳いだことがありませんか。


われら
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ザミャーチン Евгений И. Замятин 川端 香男里
岩波書店 (1992/01)
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daddyscar at 20:13   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(0) Edit

November 19, 2005

ついつい手に取った山本周五郎の樅ノ木は残ったを読み返してしまったのだけれど(いちお、こんなんも読むんよ。でもディアスポラは、まだです…)、「あー、これはハードボイルドだったんだなー」と再認識。
絶望しながら、それでも何も語らず自分の目的に突き進んでいく主人公の姿に、マーロウだったり、その鬼子であるアダルト犬神明が透けて見えるような。

もちろん山周がそれを意識していたかどうかは、まったくわからないんですが。


日本のハードボイルドって、未だにチャンドラーの呪いを引きずっているけれど、それは、みんなが、ただの狂言回しではなく、事件そのものにアクセスして疲弊していくマーロウの姿に惚れてしまった?からだと思う。

そこが、観察者でしかないリュウ・アーチャーとマーロウとの違いであって…ということは、法月綸太郎問題って、ロスマク好きを公言していたにもかかわらず、法月本人も知らず知らずのうちに、マーロウ的な主人公を欲していた、ということになるんかな。

いや、ただの思いつき(笑)

少女から乙女に、そしてやがて、女にと成熟してゆくかなしさ。よろこびであると共に、女性であることの宿命的なかなしさといったものが漠然と、けれどおもくるしく、感じられたのであった。

主人公のことをマーロウみたいだ、と云ったそばからなんですが、なんともロスマク的な文章だなー、これ。
daddyscar at 16:05   このエントリーを含むはてなブックマーク   この記事をクリップ! Comments(0)TrackBack(1) Edit
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まあ、ただの日記なんだけど
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で、一応ゲイなんですが
それに限らず色々書いてきます
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